逃亡者の社会学
◎
白人女性である著者が、大学での社会学のフィールドワークとして、低所得の黒人街で暮らし、観察・分析を行った記録。
学問・フィールドワークとして妥当かどうかはだいぶ議論が巻き起こったらしい。
だが、読み物としては最高に面白い(異文化なので)。そして、著者自身が単なる観察者ではなく、黒人たちに共感して「ある行動」を共にしてしまうあたりは、成長する若者の青春物語でもあるのだろう。
「世界でもっとも強力な9のアルゴリズム」/ジョン・マコーミック
世界でもっとも強力な9のアルゴリズム
◎
理系でなくてもわかりやすいように、有用なアルゴリズムの仕組みを解説。
私が目指したのは、読者に偉大なアルゴリズムについての知識を仕入れてもらって、日常のコンピュータ操作のなかでもこれはすごいと感じてもらえるようにすることだ。
著者の目的は十分達せられている気がする。
「公務員のデザイン術」/佐久間智之
公務員のデザイン術
○
内容はおおむね納得のいく基本的な事柄。公務員、という視点でまとめたことが新しいくらいか。
懐かしのワードアートが大々的に非推薦なのも当たり前だが、出版時点で既にかなり古かったのでは?という気もする。
「数の発明」/ケイレブ・エヴェレット
数の発明
◎
人類が生まれながらに識別できる数量は、「1」「2」「それ以上」程度のもので、3以上は文化的な伝承により後天的に身に着ける能力らしい。
地球上のあまりにも多くの言語(話者は少ないが)において、数のとらえ方が様々である例を見せられると、「数学は宇宙の真理であるから、宇宙人との意思の疎通のきっかけにもなるだろう」等という考え方も、素朴な誤りに思えてくる。
「五日市憲法」/新井勝紘
五日市憲法
◎
大日本帝国憲法の発布前に、各地で私擬憲法の草案が作られた。その中に「五日市憲法」というものがあるとは聞いていた。
よく普通に紹介されるので、発表当時から有名な草案なのかと思っていたら、著者が1968年に発見したのだという。割と新しい昭和の発見だったわけだ。
著者がそこから研究に携わるようになった半生を振り返る良書。
「シュメール人の数学」/室井和男
シュメール人の数学
◎
予備校講師の市井の研究者が、楔形文字で書かれた古代の数学を読み解く。
楔形文字が読めるようになっていることがすごいし、数学の知識で古代人の思考とつながっているのも面白い。本物の研究者。
「コミュニケーション・入門」/船津衛
コミュニケーション・入門
○
コミュニケーション学の入門書。今読むとインターネット老人としては懐かしい。
ケータイとか「高度情報化社会」とかの陳腐化する実例より、第1章~第3章あたりが面白い。
- 人間のコミュニケーション
- 自我とコミュニケーション
- 人と人とのコミュニケーション
「リスクコミュニケーション」/西澤真理子
リスクコミュニケーション
○
求めていた内容とはずれていたが、冷静な議論で面白かった。
問題は、冷静な議論が通じる平常時だけでは片手落ちだということか。
「リスクコミュニケーション」「クライシスコミュニケーション」と分けて紹介されている。
ちなみに、「リスコミ」という略称の多用が気になってしまった。
「ソーシャルネットワーク時代の自治体広報」/河井孝仁
ソーシャルネットワーク時代の自治体広報
○
自治体現場の公務員や協力企業などが寄稿する事例集。業界内部の人向け。
少し古いが、中の人には参考になるのではないか。
「弓と禅」/オイゲン・ヘリゲル
弓と禅
◎
1920年代に禅の研究のため来日し、禅へいたる道として弓道を修行したドイツ人哲学者の著。
師の阿波研造は弓道の精神性を高め、禅に通ずるものとして教えていたらしい。技術的に的に当てるスポーツではないのだ、と。
ヘリゲルは講演や自著によって、ヨーロッパへ初めて日本的な思想を紹介した人でもあるようだ。
注や解説が充実しており、なじみのない弓道の「射法八節」の図解も載っている。