「崑崙奴」/古泉迦十

 崑崙奴
 ◎
 デビューから20年以上を経た著者の2作目。エキゾチックな推理小説。
 時代背景や道教の知識などが必要なので、読者に与えられる情報だけで謎解きするのは無理がある。読みやすく書かれている(難読漢語は多いが)ので、主人公たちの動きを楽しく追ってゆくタイプの楽しみ方ができる。
 ちなみに崑崙奴、とは、南海諸国から連れてこられた奴隷だそうだ。崑崙山脈の方からではなく。
 ラストシーンの超自然現象だけがちょっと引っかかる。著者はこのシーンで本作がファンタジーであることを示したのか、それとも、明記していないだけで実は合理的な説明を用意してあるのか、どちらなんだろうか。

「移民の宴」/高野秀行

 移民の宴
 ◎
 最近、経営管理ビザの資本金要件が500万円から3000万円に引き上げられた。これにより、街の外食店であるカレー屋さんやエスニック料理店などがなくなってしまう(外国人が店舗経営のために滞在することができなくなる)のではないか、と話題になっている。確かにそういう店の資本金は3000万円もなさそうだ。参考リンク
 先日、イスラム教徒の日本への移民には反対、という人に出会った。「だって、スカーフで髪の毛を隠していなかったら、レイプしてもいい、っていう奴らですよ」などと、誤解・偏見も甚だしい(さすがに反論した)。
 身の回りのそんな出来事へのアンチテーゼとして、日本国内で花開く移民たちの食生活を描いた本書を勧めたい、と思ったのだった。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー〈上〉」/アンディ・ウィアー

 プロジェクト・ヘイル・メアリー
 ◎
 映画にもなって話題の作品、やっと読み始めた。
 途中、司令官の女性がプロジェクト遂行のための人選に悩む場面がある。

「(略)その一連の遺伝子群を持っている人間は平均して7000人にひとりしかいないということなの」
 ぼくは椅子に深くすわりなおした。「うわあ」
「そうなのよ。最適任者を送るというわけにはいかなくなりそうなの。7000人にひとりのなかの最適任者を送ることになるの」
「平均すれば3500人にひとりです」

 3500人にひとり、と言っているのは前向きな主人公のセリフだ。初めは意味が分からなかった。なんでいきなり母数が半分に?
 これは、7000人にひとりの適任者を見つけるための試行回数は平均すれば3500回(1人目は外れ、2人目は外れ、…、n人目は適任!とすると、n=1で適任のこともあれば、n=6999まで外れ続けることもあり、平均すればn=3500に落ち着く)、ということだろう。思い当たるまで時間がかかりすぎてしまった。
 これ、どっちも「平均」と言っているが、原文でも同じ表現なんだろうか?

「小さな黒い箱」/フィリップ・K・ディック

 小さな黒い箱
 ◎
 ブレードランナーの映画しか知らないので、表題作が「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の原型といわれてもピンとこない。今度小説で読んでみよう。
 「ラウタヴァーラ事件」は異星人側の視点で人類が描かれる。こういうのは好き。
 他、「ジェイムズ・P・クロウ」「時間飛行士へのささやかな贈り物」あたりがよかった。

「死のロングウォーク」/スティーヴン・キング

 死のロングウォーク
 ◎
 近未来のディストピア小説。だが、BackyardUltraを走る人なら個々のエピソードをリアルに感じることができる。
 BackyardUltra:1時間以内に6.7kmを走り続ける競技(最後の一人以外は全員失格)、24時間で100マイル
 本作THE LONG WALKのルール設定:時速4マイル以上を保って歩き続ける競技(脱落者は射殺される)、24時間で96マイル
 映画も絶対観たい。

「消えた冒険家」/ローマン・ダイアル

 消えた冒険家
 ◎
 たいへん愛情深く息子を育ててきた科学者・冒険家である父による、息子喪失の物語。
 完璧に近いといってよい子育てをしてきた父親だったが、冒険家は常に消えてゆく運命と隣り合わせなのだった。
 きっかけはYouTubeで紹介動画を見たこと。人気のチャンネルで面白いのでぜひ。