「読書録」カテゴリーアーカイブ

「数詞と内部空間」/ウォルター・H・ハートル

 数詞と内部空間
 ○
 英語における単数形/複数形の例外的な用法(ex. one crossroads is …)を現出させている、認識のメカニズムを解き明かす。
 予備知識がなく難しかったが、「ギョーム理論」がどういうものなのか何となくわかったつもりにはなった。
 もとはと言えば、蔵書に記載があった本なので、気になった次第。

「オリンピア1996 〈冠〉廃墟の光」/沢木耕太郎

 オリンピア1996 〈冠〉廃墟の光
 ◎
 「ナチスの森で」のシリーズになっているので読んでみた。
 確かに文体は違うし、商業主義オリンピックへの鋭い批判が前面に出ているが、シリーズとして特に違和感はない。
 オリンピックの東京招致が決まったとき、まさに「大義なきオリンピック」と思ったものだ。著者にはこの調子で「オリンピア2021」をぜひ書いてもらいたい。

「スーフィズムとは何か」/山本直輝

 スーフィズムとは何か
 ○
 概要をつかむにはまあまあ役立った。
 師弟関係のたとえで「NARUTO」や「鬼滅の刃」を持ち出されても、私の守備範囲外なのであまり響かず(中東地域のアニメ好きの若者たちの理解の仕方の紹介、という意味は分かるが)。
 以下のようなまとめ方は腑に落ちる。

…この世で起きたことのすべての意味はアッラーだけが知っている。ならば、スーフィズムの修行にとって重要なのは、「真理を理解する」ことではなく、「真理を得たいと志し、修行という旅を生涯にわたって続けていく」その過程そのものに価値を見出すことである。
(第十三章)

…スーフィズムは真理そのものよりもそれに至る過程を重んじるが、…
(あとがき)

 ずっと前に読んだ「火蛾」を再読したくて、その前にスーフィズムを確認しておきたかったのだ。

「イラク水滸伝」/高野秀行

 イラク水滸伝
 ◎
 読みたかった本をやっと読んだ。
 イラクにはチグリス・ユーフラテス河下流に湿地帯があり、そこに住む人々は統治機構に組み込まれず暮らしてきたという。
 反体制派が水郷に集うところを「水滸伝」になぞらえている。
 高さ8mにおよぶという葦の群生は圧巻。これは確かに見通しがきかず、狭い水路に逃げ込めばよそ者は攻めることができないだろう。水滸伝の好漢の戦い方に合点がいった。
 人類文明発祥の地に近く、湿地民であるが故に太古からの伝統が生きているという面もありそうだ。
 マーシュアラブ布=アザールの起源を探るくだりなど、好奇心をそそられる。
 一般向けの読みやすい語り口でありながら、学術的にも価値の高い本と思えた。