バリ山行
◎
バリエーションルートを行く山行を扱っているが、いわゆる「山岳小説」を期待すると肩透かしをくらう。
主人公が生活感をまじめに考えすぎているように感じられた。だからこそ、純文学枠の芥川賞受賞作なんだろう。
「読書録」カテゴリーアーカイブ
「数詞と内部空間」/ウォルター・H・ハートル
「火蛾」/古泉迦十
「洞窟ばか」/吉田勝次
洞窟ばか
◎
「サイバースペースの地政学」/小宮山功一朗+小泉悠
サイバースペースの地政学
◎
インターネット上の情報空間も、支えているのは結局物理的なインフラである、ということを改めて気にしておきたい。
データセンターや海底ケーブルなどにはそれぞれ適した立地条件があり、地理的に偏って存在している。
「オリンピア1996 〈冠〉廃墟の光」/沢木耕太郎
オリンピア1996 〈冠〉廃墟の光
◎
「ナチスの森で」のシリーズになっているので読んでみた。
確かに文体は違うし、商業主義オリンピックへの鋭い批判が前面に出ているが、シリーズとして特に違和感はない。
オリンピックの東京招致が決まったとき、まさに「大義なきオリンピック」と思ったものだ。著者にはこの調子で「オリンピア2021」をぜひ書いてもらいたい。
「スーフィズムとは何か」/山本直輝
スーフィズムとは何か
○
概要をつかむにはまあまあ役立った。
師弟関係のたとえで「NARUTO」や「鬼滅の刃」を持ち出されても、私の守備範囲外なのであまり響かず(中東地域のアニメ好きの若者たちの理解の仕方の紹介、という意味は分かるが)。
以下のようなまとめ方は腑に落ちる。
…この世で起きたことのすべての意味はアッラーだけが知っている。ならば、スーフィズムの修行にとって重要なのは、「真理を理解する」ことではなく、「真理を得たいと志し、修行という旅を生涯にわたって続けていく」その過程そのものに価値を見出すことである。
(第十三章)
…スーフィズムは真理そのものよりもそれに至る過程を重んじるが、…
(あとがき)
ずっと前に読んだ「火蛾」を再読したくて、その前にスーフィズムを確認しておきたかったのだ。
「オリンピア1936 ナチスの森で」/沢木耕太郎
オリンピア1936 ナチスの森で
◎
孫基禎(マラソン)の話を知れてよかった。
いや、それどころかレニ・リーフェンシュタールについても何も知らなかったのだが。オリンピアも観てないし。
「古代オリエントの宗教」/青木健
古代オリエントの宗教
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ユダヤ教・キリスト教・イスラム教含めて、「聖書ストーリー」としてくくる見方が面白かった。いわゆる「啓典の民」という自意識の拡大の歴史、なのかな。
「イラク水滸伝」/高野秀行
イラク水滸伝
◎
読みたかった本をやっと読んだ。
イラクにはチグリス・ユーフラテス河下流に湿地帯があり、そこに住む人々は統治機構に組み込まれず暮らしてきたという。
反体制派が水郷に集うところを「水滸伝」になぞらえている。
高さ8mにおよぶという葦の群生は圧巻。これは確かに見通しがきかず、狭い水路に逃げ込めばよそ者は攻めることができないだろう。水滸伝の好漢の戦い方に合点がいった。
人類文明発祥の地に近く、湿地民であるが故に太古からの伝統が生きているという面もありそうだ。
マーシュアラブ布=アザールの起源を探るくだりなど、好奇心をそそられる。
一般向けの読みやすい語り口でありながら、学術的にも価値の高い本と思えた。