月別アーカイブ: 2019年1月

「風雪のビヴァーク」/松濤明

 新編・風雪のビヴァーク (yama‐kei classics)
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 若くして北アルプスで遭難死した昭和初期の登山家の著作集。
 死を覚悟して記した冷静な遺書が有名であるようだ。そのことで知られるようになってしまったが、実際優れた先鋭的登山家であった、ということを遺稿から描き出そう、ということらしい。
 本文は淡々とした山行記録。遭難に至る山行についても、ドラマチックな演出は皆無で、本人の手帳からの手記のみ。したがって、「そういう結末を迎える人が書いたものだ」という事実を意識して、改めて読み直さないと、本質に迫ることはできないように思う。
 山行記録についても、文章で解説は付いているが、初読者向けに分かりやすい地図などが併載されているわけではない。あくまで、本人が会報に寄稿した原稿の再録である。
 

「ハッカーと画家」/Paul Graham+川合史朗

 ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち
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 副題「コンピュータ時代の創造者たち」。凄腕プログラマ兼ベンチャービジネスの成功者である著者による、エッセイ集。
 自由について、創造力について、技術力の優位性について、など。著者が自身を「楽天家」と認めているように、例えば、規制を減らして市場原理に任せれば最も良い結果が残る、というような主張を、留保条件なしで明快に述べる。とってもアメリカンな感じだ。
 日本語版は2004年刊行だから、もう一昔以上前だけれど、優れた見解は色褪せない。
 

「ミニヤコンカ奇跡の生還」/松田宏也

 ミニヤコンカ奇跡の生還 (ヤマケイ文庫)
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 中国・四川省の山に挑み、遭難した若者自身の著書。
 アタッカー二人のうち一人は撤退下山中にたおれ、キャンプ地まで必死の思いでたどり着いた著者自身も、凍傷その他で重症・瀕死の状態だったという。体重が30kg台まで落ちていたというから、まさに生きていたのが奇跡というべきだろう。
 擬音の描写などから、著者の文学的なセンスが伺える。
 ただ、この遠征の計画や準備が本当に本書の通りの経過をたどったのならば、悲劇は起こるべくして起きたようにも思える。12名の予定が7名に減り、そのうち2人は経験の浅い女性隊員、となった段階で相当無理な計画になってしまったのではないだろうか。