月別アーカイブ: 2018年12月

「単独行者」/谷甲州

 単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝
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 新・加藤文太郎伝、とあるように、「単独行」の著者である山男の伝記。新田次郎の「孤高の人」とは別の解釈で描いたという(ただし、私は「孤高の人」を未読なので、今の段階で比較はできない)。
 加藤文太郎本人の著作「単独行」とは読み比べてみた。資料はほぼこれしかないのだという。
 この少ない情報から、よく生き生きとした人物像を描いたものだ、と、作家・谷甲州の力量に感嘆した。想像で補ったと思われる、主人公加藤の心の動き、苛立ちなど、実際にそうだったのではないかと思わされる。SF作家だと思ってたけど、幅広い。
 

「辺境メシ」/高野秀行

 辺境メシ ヤバそうだから食べてみた
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 世界各国を旅してきた著者による、ちょっと日本では食べられない料理の数々。
 「口噛み酒」の項では、その起源について著者の見解が示される。

 果実酒は放置しておけばいい。ビールや日本酒も、偶然、麦芽や麹が入ったのを人間が発見するというのは容易に想像できる。でも、大事な食べ物をあれだけ丁寧に噛んでから吐き出し、それを三日も放置しておいたら酒になっていたのを発見した……なんてシナリオは全く想像できない。

 一つ、可能性として考えられるのは、もともと神様か祖先の霊への儀式が先立っていたのではないかということだ。今でも食べ物はちゃんと調理してお供えする。かつては、調理だけでなく、人間が「噛んであげた」ということもあったのではないか。

 もう一歩進んで私見を述べると、「噛んであげる」対象は離乳期の幼子だろう。幼くして亡くなった子供への供物だったのではなかろうか。