数の発明
◎
人類が生まれながらに識別できる数量は、「1」「2」「それ以上」程度のもので、3以上は文化的な伝承により後天的に身に着ける能力らしい。
地球上のあまりにも多くの言語(話者は少ないが)において、数のとらえ方が様々である例を見せられると、「数学は宇宙の真理であるから、宇宙人との意思の疎通のきっかけにもなるだろう」等という考え方も、素朴な誤りに思えてくる。
「五日市憲法」/新井勝紘
五日市憲法
◎
大日本帝国憲法の発布前に、各地で私擬憲法の草案が作られた。その中に「五日市憲法」というものがあるとは聞いていた。
よく普通に紹介されるので、発表当時から有名な草案なのかと思っていたら、著者が1968年に発見したのだという。割と新しい昭和の発見だったわけだ。
著者がそこから研究に携わるようになった半生を振り返る良書。
「シュメール人の数学」/室井和男
シュメール人の数学
◎
予備校講師の市井の研究者が、楔形文字で書かれた古代の数学を読み解く。
楔形文字が読めるようになっていることがすごいし、数学の知識で古代人の思考とつながっているのも面白い。本物の研究者。
「コミュニケーション・入門」/船津衛
コミュニケーション・入門
○
コミュニケーション学の入門書。今読むとインターネット老人としては懐かしい。
ケータイとか「高度情報化社会」とかの陳腐化する実例より、第1章~第3章あたりが面白い。
- 人間のコミュニケーション
- 自我とコミュニケーション
- 人と人とのコミュニケーション
「リスクコミュニケーション」/西澤真理子
リスクコミュニケーション
○
求めていた内容とはずれていたが、冷静な議論で面白かった。
問題は、冷静な議論が通じる平常時だけでは片手落ちだということか。
「リスクコミュニケーション」「クライシスコミュニケーション」と分けて紹介されている。
ちなみに、「リスコミ」という略称の多用が気になってしまった。
「ソーシャルネットワーク時代の自治体広報」/河井孝仁
ソーシャルネットワーク時代の自治体広報
○
自治体現場の公務員や協力企業などが寄稿する事例集。業界内部の人向け。
少し古いが、中の人には参考になるのではないか。
「弓と禅」/オイゲン・ヘリゲル
弓と禅
◎
1920年代に禅の研究のため来日し、禅へいたる道として弓道を修行したドイツ人哲学者の著。
師の阿波研造は弓道の精神性を高め、禅に通ずるものとして教えていたらしい。技術的に的に当てるスポーツではないのだ、と。
ヘリゲルは講演や自著によって、ヨーロッパへ初めて日本的な思想を紹介した人でもあるようだ。
注や解説が充実しており、なじみのない弓道の「射法八節」の図解も載っている。
「異色中国短篇傑作大全」/宮城谷昌光(編)
異色中国短篇傑作大全
◎
日本人小説家による、中国を舞台にした短編集。かなり気に入った。このジャンルもっと読んでみたいな。
特によかったのは、編者の宮城谷昌光による「指」のほか、
- 曹操と曹丕/安西篤子
- 茶王一代記/田中芳樹
- 汗血馬を見た男/伴野朗
- 西施と東施/中村隆資
など。
「ちいさい言語学者の冒険」/広瀬友紀
ちいさい言語学者の冒険
◎
最近ゆる言語学ラジオにはまっている。子供や外国人が言葉を学んでゆくときに出てくる「間違い」は、その言語の本質を突いていることが多いようだ。
本書は、子育て中の言語学者が自身の子を観察した、幼児の言動が取り上げられている。微笑ましい。
「タリバン復権の真実」/中田考
タリバン復権の真実
◎
2021/8/15首都カブール陥落へと至った、タリバン雌伏の20年間・西欧とアフガニスタン傀儡政権の矛盾に満ちた20年間を読み解く。
「民主主義」に対するとらえ方が、タリバンと西欧では隔たりがありすぎ、この点での歩み寄りはどちらにも期待できない。互いの主張を尊重して内政干渉せず、移動を望む者は拒まない、というあたりが落としどころか。