「読書録」カテゴリーアーカイブ

「戦場出稼ぎ労働者」/安田純平

 ルポ 戦場出稼ぎ労働者 (集英社新書)
 ◎
 長期間、人質として拘束されていたジャーナリスト・安田純平氏の著書。
 解放されたときに、「『我々』が頼んで現地に行ってもらったわけではない(から、国が救出に努力する必要はない)」とか、「ジャーナリストと自称して現地入りして、結局国に迷惑をかけただけ」というような、国家主義者たちの唾棄すべき批判があった。
 だが、大手メディアに所属しなくてもジャーナリストとしての活動は有意義なものであるし、むしろ身軽で危険を顧みないスタンドプレーが、本書のような著作に結実し、私たちの知識・認識を豊かにしてくれるのだ。
 本書は2010年発行で、上記の人質事件より前のものだ。著者がちゃんと実績を積んできた人物であることもわかるだろう。
 現地(イラク周辺国)では、イラクの米軍基地等へ出稼ぎに行く、ということ自体が、さほど特別なことではなかったようだ。そもそも「外国へ出稼ぎに行く」というライフスタイルがある程度確立されているわけだ。意外だったのは、「明日食べるものにも困るので仕方なく戦地へ」というケースはなく、むしろある程度の資金を用意できる中流(? 少なくとも貧困層ではない)の人々が、エージェントに費用を払って雇ってもらっている、ということだ。そういうルートを通さずに現地企業に直接アタックしてもまず雇われないということらしい。
 

「木曜日だった男」/チェスタトン+南條竹則

 木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)
 △
 NATURAL BORN HEROESで言及されていたので読む。チェスタトンて初めて読んだ。
 古典だからか、訳文もちょっと現代小説に比べると堅くてお行儀が良い感じ。舞台設定はなかなか面白いはずなのに、話そのものはう〜ん、なんだかなぁ?中だるみして冗長な感じがする…。
 

「追われる男」/ジェフリー・ハウスホールド

 追われる男 (創元推理文庫)
 ◎
 イギリス冒険小説の傑作、と言われているらしい。その名に恥じない読み応えでした。
 主人公の手記の形で描かれるサバイバル逃避行。彼が追われることになった事情は要人暗殺未遂。だが、国家の指令でやったのではない、という。その背景、動機は初めは判然としない。読者にとってはミステリー小説でもある。
 最後に鮮やかな一発逆転のカタルシスがある。
 

「ナチュラル・ボーン・ヒーローズ」/クリストファー・マクドゥーガル

 ナチュラル・ボーン・ヒーローズ 人類が失った”野生”のスキルをめぐる冒険
 ○
 登場人物が多く、話が錯綜している。初読では内容がつかみにくい。次の三つの柱が絡み合い、場面転換を繰り返しながら記述されている。

  • 第二次世界大戦中、ナチス占領下のギリシャ、クレタ島。ここを舞台に行われた、ごく少数の英軍工作員とクレタ人レジスタンスによる、ナチスの将軍の誘拐・捕虜計画。不可能な作戦を可能にした秘密は、クレタ人の野生のスキルにあったのか?
  • この史実に迫ろうとするアマチュア歴史家と著者による、現代のクレタ島での現地調査。
  • 著者自ら、世界各国のナチュラル系トレーニングを体験し、自分の肉体で効果を実感し、そのルーツを説明する。

 冒険譚としては、悪役の描写に凄惨さがない(やっていることは大虐殺なのだが)。歴史ミステリーとしては、謎解きが少ない(史実として知らないことではあったが)。
 興味深かったのはトレーニングと健康の話。

  • マラソンで脱水症と死亡事故を結びつける医学的エビデンスはない(飲料メーカーに踊らされ、喉が乾く前に飲む→水分取りすぎ→低ナトリウム血症、は事故の原因になる)
  • 180−年齢(+5)で、脂肪燃焼に適した心拍数がわかる(これを超えると糖質エネルギーを使うようになる)
  • 人間は筋肉よりも全身を覆う筋膜による弾みを効果的に使える

 

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「風雪のビヴァーク」/松濤明

 新編・風雪のビヴァーク (yama‐kei classics)
 ○
 若くして北アルプスで遭難死した昭和初期の登山家の著作集。
 死を覚悟して記した冷静な遺書が有名であるようだ。そのことで知られるようになってしまったが、実際優れた先鋭的登山家であった、ということを遺稿から描き出そう、ということらしい。
 本文は淡々とした山行記録。遭難に至る山行についても、ドラマチックな演出は皆無で、本人の手帳からの手記のみ。したがって、「そういう結末を迎える人が書いたものだ」という事実を意識して、改めて読み直さないと、本質に迫ることはできないように思う。
 山行記録についても、文章で解説は付いているが、初読者向けに分かりやすい地図などが併載されているわけではない。あくまで、本人が会報に寄稿した原稿の再録である。
 

「ハッカーと画家」/Paul Graham+川合史朗

 ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち
 ◎
 副題「コンピュータ時代の創造者たち」。凄腕プログラマ兼ベンチャービジネスの成功者である著者による、エッセイ集。
 自由について、創造力について、技術力の優位性について、など。著者が自身を「楽天家」と認めているように、例えば、規制を減らして市場原理に任せれば最も良い結果が残る、というような主張を、留保条件なしで明快に述べる。とってもアメリカンな感じだ。
 日本語版は2004年刊行だから、もう一昔以上前だけれど、優れた見解は色褪せない。
 

「ミニヤコンカ奇跡の生還」/松田宏也

 ミニヤコンカ奇跡の生還 (ヤマケイ文庫)
 ○
 中国・四川省の山に挑み、遭難した若者自身の著書。
 アタッカー二人のうち一人は撤退下山中にたおれ、キャンプ地まで必死の思いでたどり着いた著者自身も、凍傷その他で重症・瀕死の状態だったという。体重が30kg台まで落ちていたというから、まさに生きていたのが奇跡というべきだろう。
 擬音の描写などから、著者の文学的なセンスが伺える。
 ただ、この遠征の計画や準備が本当に本書の通りの経過をたどったのならば、悲劇は起こるべくして起きたようにも思える。12名の予定が7名に減り、そのうち2人は経験の浅い女性隊員、となった段階で相当無理な計画になってしまったのではないだろうか。
 

「単独行者」/谷甲州

 単独行者(アラインゲンガー)新・加藤文太郎伝
 ◎
 新・加藤文太郎伝、とあるように、「単独行」の著者である山男の伝記。新田次郎の「孤高の人」とは別の解釈で描いたという(ただし、私は「孤高の人」を未読なので、今の段階で比較はできない)。
 加藤文太郎本人の著作「単独行」とは読み比べてみた。資料はほぼこれしかないのだという。
 この少ない情報から、よく生き生きとした人物像を描いたものだ、と、作家・谷甲州の力量に感嘆した。想像で補ったと思われる、主人公加藤の心の動き、苛立ちなど、実際にそうだったのではないかと思わされる。SF作家だと思ってたけど、幅広い。