月別アーカイブ: 2013年3月

「江戸の非人頭車善七」/塩見鮮一郎

 江戸の非人頭 車善七 (河出文庫)
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 「組織化され、政府から職務を割り当てられていた非人」という、知らない人にはちょっと意外な穢多・非人像。
 各お頭が、自分たちの身分の由緒を政府に説明するとき、本人も歴史的な事実がよくわからないまま、言い伝えレベルの内容を説明している。説明を求めた政府側も、知らないから聞いたのであろう。なんだか、たまたまそういう仕事に従事していた一族が、時の為政者の都合で固定化され、身分制度に組み込まれただけのような気がする。
 

「砦に拠る」/松下竜一

 砦に拠る (講談社文庫)
 ◎
 下筌ダム建設反対にかけた「蜂の巣城騒動」の記録。「法には法、暴には暴」の方針で国を相手に正面から訴訟で争う姿勢が小気味よい。
 仮に、「上流にダムが必要」という行政の判断が治水のためには正しかったとしよう。それでもなお、「そのダムを含む全体の河川計画が公開されていない」「私企業・九州電力の費用負担が少なすぎる」「明らかに多目的ダムであるのに、法に定められた基本計画がない=したがって強制収用ができるような事業として認定したこと自体が無効である」といった反対派の主張は勝訴を得るに十分であったと思える。

―成程、この老人は裁判を神聖なものと信じ抜いているのだ。一切の外的圧力から屹立して、厳正なる法文のみに照らして理非が糺される殿堂だと信じ抜いているのだ。

とは、著者の慨嘆である。私もまた、そうあれかしと思う者だ(現実の裁判が推定有罪の展開になるたびに憤る)。その目から見ると、敗訴の経緯、特に「一審敗訴を確定させた弁護士」の所業が実に許しがたい。
 

「論争する宇宙」/吉井譲

 論争する宇宙 ―「アインシュタイン最大の失敗」が甦る (集英社新書)
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 「時間と宇宙のすべて」に続けて読んだ、最新の宇宙論。最新の…とはいえもう7年も前の話だ。が、とにかく私が生半可な知識でもっていた「インフレーション宇宙論」はすでに否定されていることがわかった。
 最終章の「マグナム・プロジェクト」もビジネスストーリーとして面白い。
 

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