「星と嵐」/ガストン・レビュファ+近藤等

 星と嵐 (yama‐kei classics)
 ◎
 アルプスの山岳ガイドであった著者による、1940年代の北壁登攀記録。グランド・ジョラス、ピッツ・バディレ、ドリュ、マッターホルン、チマ・グランデ・ディ・ラヴァレド、アイガー、と6つの北壁制覇が収録されている。当時、アルプス各峰の北壁は初登が果たされたばかりであった。
 訳文はやや硬いが、豊かな感受性を感じさせる文章だ。各章扉に登攀ルートの図が載っているが、もう少し詳しい説明付きだとありがたい。
 

「残念な職場」/河合薫

 残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実 (PHP新書)
 ◎
 ピーターの法則(組織に無能な上司が多い理由)が気になったきっかけで読む。

 働く人は評価されると、一つ上の階層に出世していく。そして、いずれは自分の仕事が評価される限界の階層まで出世する。(略)出世に伴って仕事の内容が変わりうまく適応できないこともある。
 (略)必ずしも管理職としての能力に長けているわけではないので、そのレベルで無能と化す

 なるほど。
 本書は日本の職場の様々な風習・事例を取り上げているが、その分析については典拠のある学説・論文に基づいている。主観で断定したわけではないところがいい。
 

「日本が売られる」/堤未果

 日本が売られる (幻冬舎新書)
 ◎
 日本が売られる。誰に? 「今だけカネだけ自分だけ」で突き進む者たちに。

 今私たちは、トランプや金正恩などのわかりやすい敵に目を奪われて、すぐ近くで息を潜めながら、大切なものを奪ってゆく別のものの存在を、見落としているのではないか。

 少なくとも、一般メディアの視点からは抜け落ちている部分だと思う。
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「みんなちがって、みんなダメ」/中田考

 みんなちがって、みんなダメ
 ○
 イスラム神学者である著者の語りを、人生に悩む若者向けに(?)まとめ直した本。
 神の前では、人間はちっぽけで愚かでダメな存在なんだ、という認識が根底にある。これはムスリムに共通の一般的な認識だろう。そういう意味で、イスラム教徒になれば「つまらないプライド」などのこだわりを捨ててラクに生きられる、というのは事実だと思う。
 著者本人は、単にイスラム教徒であるだけでなく、カリフ制復興を目指すというやや過激な思想家でもあるので、

私はイスラーム文明論者なんで、イスラーム的に誤ったものは滅んでもかまわないという立場です。

といった面をもう少し知りたかったんだが、そういう本ではなかったようだ。
 

「戦場出稼ぎ労働者」/安田純平

 ルポ 戦場出稼ぎ労働者 (集英社新書)
 ◎
 長期間、人質として拘束されていたジャーナリスト・安田純平氏の著書。
 解放されたときに、「『我々』が頼んで現地に行ってもらったわけではない(から、国が救出に努力する必要はない)」とか、「ジャーナリストと自称して現地入りして、結局国に迷惑をかけただけ」というような、国家主義者たちの唾棄すべき批判があった。
 だが、大手メディアに所属しなくてもジャーナリストとしての活動は有意義なものであるし、むしろ身軽で危険を顧みないスタンドプレーが、本書のような著作に結実し、私たちの知識・認識を豊かにしてくれるのだ。
 本書は2010年発行で、上記の人質事件より前のものだ。著者がちゃんと実績を積んできた人物であることもわかるだろう。
 現地(イラク周辺国)では、イラクの米軍基地等へ出稼ぎに行く、ということ自体が、さほど特別なことではなかったようだ。そもそも「外国へ出稼ぎに行く」というライフスタイルがある程度確立されているわけだ。意外だったのは、「明日食べるものにも困るので仕方なく戦地へ」というケースはなく、むしろある程度の資金を用意できる中流(? 少なくとも貧困層ではない)の人々が、エージェントに費用を払って雇ってもらっている、ということだ。そういうルートを通さずに現地企業に直接アタックしてもまず雇われないということらしい。
 

「木曜日だった男」/チェスタトン+南條竹則

 木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)
 △
 NATURAL BORN HEROESで言及されていたので読む。チェスタトンて初めて読んだ。
 古典だからか、訳文もちょっと現代小説に比べると堅くてお行儀が良い感じ。舞台設定はなかなか面白いはずなのに、話そのものはう〜ん、なんだかなぁ?中だるみして冗長な感じがする…。
 

「追われる男」/ジェフリー・ハウスホールド

 追われる男 (創元推理文庫)
 ◎
 イギリス冒険小説の傑作、と言われているらしい。その名に恥じない読み応えでした。
 主人公の手記の形で描かれるサバイバル逃避行。彼が追われることになった事情は要人暗殺未遂。だが、国家の指令でやったのではない、という。その背景、動機は初めは判然としない。読者にとってはミステリー小説でもある。
 最後に鮮やかな一発逆転のカタルシスがある。