「危機と人類」/ジャレド・ダイアモンド

 危機と人類(上) (日本経済新聞出版)
 危機と人類(下) (日本経済新聞出版)
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 人間が個人的な危機に陥った時にどう対処するか?といった心理学的な研究を、国家レベルの危機に適用しようとする試み。日本は明治維新の開国と、現代が取り上げられている。
 個人的な危機を克服する要因といわれているものが12個挙げられている。

  1. 危機に陥っていると認めること
  2. 行動を起こすのは自分であるという責任の受容
  3. 囲いを作り、解決が必要な個人的問題を明確にすること
  4. 他の人々やグループからの、物心両面での支援
  5. 他の人々を問題解決の手本にすること
  6. 自我の強さ
  7. 公正な自己評価
  8. 過去の危機体験
  9. 忍耐力
  10. 性格の柔軟性
  11. 個人の基本的価値観
  12. 個人的な制約がないこと

 国家の危機でも、これらの要因別に分析することで解釈が可能なのではないか、ということだ。例えば、5.は「他国の危機対応に学ぶ」、12.は「地政学的な制約条件がないか」といった具合だ。
 

「自分でわが家を作る本。」/氏家誠悟

 自分でわが家を作る本。
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 在来の軸組工法で、自分で自分の家を建てる、という著者の体験によるマニュアル本。
 ツーバイフォーよりも日本の気候に合っているとか、接ぎ手の加工は意外と簡単、という良い点はあるんだろう。
 ただ、私はそこまで本格的な、家族で住むような家を作る予定はないのだった。小屋で良い。
 

「不道徳な経済学」/ウォルター・ブロック+橘玲

 不道徳な経済学: 転売屋は社会に役立つ (ハヤカワ文庫NF) 
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 リバタリアニズムの論理で、一般に不道徳とされる職業・行為を擁護する。売春婦、麻薬密売人、恐喝者、等々。少なくとも、罰を科すべき物事ではない、と。原著者まえがきには次のように書かれている。

 こうした行為が道徳的だとか適切だとか善行だとか主張しているわけでもないのである。

 自由原理主義の論理に綻びは見られないが、神経を逆なでされるような不快感を持ってしまうのは、私も普通人、常識人だということだろうか。
 内容は、40年以上前の原著「DEFENDING THE UNDEFENDABLE」を現代日本の事例に置き換えて記述した「超訳」である。中には「ツイッタラー」「ホリエモン」まで取り上げられている。
 あまりにも題材が現代的すぎるものは、原著がどうだったのか知りたいところだ。
 

「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」/ターリ・シャーロット

 事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学
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 私たちの脳は、自分が元々持っている考えに合う意見しか受け入れないらしい。進化の過程で、過去の経験に反する新しい知見は受け入れない方が安全性が高く、そのようになったのだろう。全体として本書に書かれていることに納得はできる。ただし、下記の実験の解釈には異論がありうると思う。

 …ミリーとユアンは別の部屋に案内された。二人はそれぞれコンピュータに向かい、200軒ほどの不動産物件を見せられる。…そこで彼らは、各物件に100万ドル以上の価値があるのか、ないのかを答えなくてはならない。

 ミリーが100万ドル以上と判断し、2ポンドを賭ける。正解なら2ポンドがもらえるが、不正解なら2ポンドを失う。ミリーは掛け金を決めたあとに、ユアンの答えと賭け金を知ることができ、答えを変えることはできないが、賭け金を変えたり、賭けをやめることはできる。
 このルールのもと、ミリーは「ユアンが違う意見だと知っても何もしなかった」「ユアンが同意見だったときは賭け金を上げた」という結果だったという。すなわち、

自分の投資を支持する情報は重んじたが、自信を失わせる情報は軽視した。

 この推論は妥当だろうか? 少なくとも次のような可能性が考えられるだろう。
 不動産の価格というものは需給関係で決まる。つまり、多くの人が100万ドル以上の価値がある、と見積もる物件には、100万ドル以上の価値がある可能性が高い。何も情報がない段階で二人のうち二人とも価値を認めたのなら、その物件は実際に価値が高いと判断するのが妥当だ。従って、賭け金をあげてよい、という判断になる。二人の意見の一致を見なかったときには、その物件の価値を判断する指標は相変わらず自分の直感だけだ。従って、賭け金を変更する必要もない…。
 どうかな?
 

「典獄と934人のメロス」/坂本敏夫

 典獄と934人のメロス
 ◎
 歴史の闇に埋もれた事実を小説で再現するドキュメンタリー。傑作。
 関東大震災で崩壊した横浜刑務所の所長・椎名通蔵は、状況に鑑みて囚人の解放を決断した。囚人たちはその信頼によく応え、最終的には全員が戻ってきたという。
 また、囚人たちは救援物資の荷揚げなどに積極的に協力したらしい。そういう逸話が残っているものの、公式の記録にはむしろ「囚人が大挙して略奪した」といった根も葉もない噂や、数百人の囚人が未帰還の状態での帰還者人数(ほぼ全員が帰還とは読めない)が記録されているのだという。
 そのような公式記録に載らなかった理由、これは想像で描くしかないだろう。だから小説なのだ。
 しかし、著者は刑務官出身であり、当事者の子孫に聞き取りを行ったうえで作品にしている。本書の骨子は事実に基づくもの、と考えていいのではないだろうか。
 

「入門国境学」/岩下明裕

 入門 国境学 – 領土、主権、イデオロギー (中公新書)
 ◎
 著者はボーダー・スタディーズという新しい学問分野を開拓してきたのだという。国境学そのものとともに、著者の歩んできた足跡の紹介でもある。
 やや内容が詰め込みすぎの感じがしたが、幅広く扱う分野だから仕方ないという面もありそうだ。
 ボーダー・ツーリズムは参加してみたい旅の一つ。