「典獄と934人のメロス」/坂本敏夫

 典獄と934人のメロス
 ◎
 歴史の闇に埋もれた事実を小説で再現するドキュメンタリー。傑作。
 関東大震災で崩壊した横浜刑務所の所長・椎名通蔵は、状況に鑑みて囚人の解放を決断した。囚人たちはその信頼によく応え、最終的には全員が戻ってきたという。
 また、囚人たちは救援物資の荷揚げなどに積極的に協力したらしい。そういう逸話が残っているものの、公式の記録にはむしろ「囚人が大挙して略奪した」といった根も葉もない噂や、数百人の囚人が未帰還の状態での帰還者人数(ほぼ全員が帰還とは読めない)が記録されているのだという。
 そのような公式記録に載らなかった理由、これは想像で描くしかないだろう。だから小説なのだ。
 しかし、著者は刑務官出身であり、当事者の子孫に聞き取りを行ったうえで作品にしている。本書の骨子は事実に基づくもの、と考えていいのではないだろうか。
 

「入門国境学」/岩下明裕

 入門 国境学 – 領土、主権、イデオロギー (中公新書)
 ◎
 著者はボーダー・スタディーズという新しい学問分野を開拓してきたのだという。国境学そのものとともに、著者の歩んできた足跡の紹介でもある。
 やや内容が詰め込みすぎの感じがしたが、幅広く扱う分野だから仕方ないという面もありそうだ。
 ボーダー・ツーリズムは参加してみたい旅の一つ。