「辺境メシ」/高野秀行

 辺境メシ ヤバそうだから食べてみた
 ○
 世界各国を旅してきた著者による、ちょっと日本では食べられない料理の数々。
 「口噛み酒」の項では、その起源について著者の見解が示される。

 果実酒は放置しておけばいい。ビールや日本酒も、偶然、麦芽や麹が入ったのを人間が発見するというのは容易に想像できる。でも、大事な食べ物をあれだけ丁寧に噛んでから吐き出し、それを三日も放置しておいたら酒になっていたのを発見した……なんてシナリオは全く想像できない。

 一つ、可能性として考えられるのは、もともと神様か祖先の霊への儀式が先立っていたのではないかということだ。今でも食べ物はちゃんと調理してお供えする。かつては、調理だけでなく、人間が「噛んであげた」ということもあったのではないか。

 もう一歩進んで私見を述べると、「噛んであげる」対象は離乳期の幼子だろう。幼くして亡くなった子供への供物だったのではなかろうか。
 

「NORTH 北へ」/スコット・ジュレク

 NORTH 北へ―アパラチアン・トレイルを踏破して見つけた僕の道
 ◎
 ウルトラトレイルランナーの神、スコット・ジュレクによるロングハイキングの記録。
 「ハイキング」っていうとのどかなイメージだが、北米を縦断するトレイルを過去最速で駆け抜けようという、スポーツもしくは冒険である。
 40代になってレースでの限界を感じた著者が、新しいパートナーとともに、新たなチャレンジをしているわけで、「新しい人生観を切り開く」ような意味合いが本人にはあったようだ。これはこれで読み応えのある記録だが、「EAT&RUN 100マイルを走る僕の旅」のほうがジュレクのバックグラウンドが垣間見れて興味深い。そういえば、ダスティはATには参加しなかったのか? なんか寂しいな。
 

「ランニング登山」/下嶋渓+松本大

 ランニング登山: もうひとつの山登りの刺激的世界 (絶版新書)
 ◎
 トレイルランナーの先駆け、工学部の先生による「山を走る」ことの解説、説明書。理系らしく、グラフや一覧表でデータを示す。
 スカイランナーの松本大氏の座右の書だったらしい。1986年刊行の書籍の復刊。
 

「森の回廊」/吉田敏浩

 森の回廊―ビルマ辺境民族開放区の1300日
 ◎
 ビルマの少数民族ゲリラとともに、三年半にわたって森を巡った記録。
 従軍記者のような位置付けでありながら、戦闘の描写は少ない。しかし、著者が実際に巻き込まれた戦闘(というか、ビルマ国軍による一方的な爆撃)では、本気の危機一髪、危うく死ぬところという緊迫感。
 ともかく、文化・民俗・自然観察の描写が繊細、精緻で価値のある記録。
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「トルコのもう一つの顔」/小島剛一

 トルコのもう一つの顔 (中公新書)
 ◎
 四半世紀前、中東の旅先で出会った日本人からトルコについてすごくいい本がある、と紹介されたのがこれだ。たぶん。
 彼が言い間違えたか私が聞き間違えたか、「もう一つのトルコ」だとばかり思っていたので、帰国後、何度か図書館などで探したが見当たらず、あきらめていた。
 この度、クルドの地に旅をした若い友人たちのネット上からの情報で、正しい書名を知る。
 深い知性に裏打ちされた、軽妙な文体。民族浄化など重いテーマも背後にあるのだが、紀行文として読んでも十分面白い。これは著者の自由な生き方がそのままにじみ出ているのだろう。
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「極限力」/山本晃市

 極限力 ~Beyond Self~
 ◎
 山岳ランニング界の超人たちが語る、「ゾーンへの入り方」。16人が同じことを言っているようで、それぞれ違うことを言っているような気もする。ちなみに16人のうち、次の方たちは直接見かけたことがあります。

  • 横山峰弘氏:2018年上州武尊山スカイビュートレイルのブリーフィングにて
  • 松本大氏:2017年スパトレイルのブリーフィング、レース中のエイドにて
  • 渡邊千春氏:2017年峨山道トレイルランのゴールにて
  • 奥宮俊祐氏:2017年FTRのレース前、およびレース後の現場検証登山にて
  • 石川弘樹氏:2018年奥三河パワートレイルのレース中のエイド、ゴールにて

 結局、限界を超える方法みたいなものは人それぞれなので多少参考になるかならないか、といったところだろう。
 それよりも、日本のトレイルランニングの名勝負の数々が記されているところが良かった。付録の「日本アウトドア・ランニング ショートヒストリー」もよい。
 

「スウィングしなけりゃ意味がない」/佐藤亜紀

 スウィングしなけりゃ意味がない
 ◎
 久しぶりの読書、一気読み。
 第二次大戦、ナチス政権下のドイツで、JAZZとアメリカ文化に興じる上流階級の御曹司たちがいたという。私は御曹司ではない(経済的にも、年齢的にも)が、彼らが「おバカの帝国」と自国を罵りたい気分には完全に同調した。主人公=語り手の両親の最期の迎え方には、ちょっと羨望を抱くぐらいだ。
 この本、英訳・ドイツ語訳したら結構売れるんじゃないだろうか。